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    引退

    • 2008.09.05 Friday
    • 16:52
    事務所にあるカレンダーを見たら9月に入っている。当たり前か。
    しかし、恐ろしい速さで時間が過ぎている気がするのは気のせいかしら・・

    自宅に住み着いた鈴虫達が餌を与えているにも関わらず雌が雄を食べてしまった。
    茄子と鰹節を与えていたのだが、鰹節が無くなった途端に雄が餌食になったようだ・・
    以前、ここに雌が美しい羽音を奏でると書いたが私の知識不足であり羽音を奏でるのは雄だった。
    お詫びを申し上げる。
    虫かごには卵の様な白い小さな粒が硝子面や石に付着している。
    雄の仕事は終わったと言う事か・・・
    雌の為に一生懸命子守唄を唄ったあげく食べられてしまうのでは鈴虫も不憫なものだ。
    似たような話を人間の世界でも耳にする事がある・・アハハ

    昨夜、一人でT鮨のカウンターにいると聞き覚えのある声がした。
    板前のTさんと話している横顔に見覚えがある。
    Kさんだ。私が視線を送るとKさんも驚いたように私を見て大声を出している。
    私の髭の白髪が増えた事を笑いながら幾つになったかを聞かれた。
    41歳だと私が言うと「そうか・・清原と同じか。まだまだ若いよ。まだやれるよ」
    なんて真顔で言っている。よほど清原選手の引退が悲しいのかそれとも相当な贔屓なのだろうな・・

    Kさんは丁度10年程前に私が会社を立ち上げる上で色々と世話になった方で、弊社が現在の場所に移転してからここ数年何となく疎遠になっていたが、この辺りでは知らない人のいない不動産会社の社長だ。
    無沙汰を詫びると「いいの、いいの」なんて言いながら私の横に腰掛け酒を注文する。
    そういえばKさん、鮨好きがこうじて、本業そっちのけで銀座の鮨屋のビルを買い取った話を風の噂で聞いた。
    自分の目にかなった板前さんをくどきKさんが納得するネタを出す鮨屋らしい。
    どうりで今夜は板前のTさんやSさんなんかが緊張した顔で握っているのだな。
    Kさんは板前のTさんの握る鮨が食べたくて時々この店に顔を出すのだと言う。
    まさか引き抜きでは無いだろうがTさんにしてみれば職人みよりに尽きる話である。

    KさんはT鮨で一番若い見習いのN君に「お客の酒が無くなった事を見ていなきゃダメだ」と叱っている。
    他のお客にしてみればこの店のオーナーにでも見えるだろうな。
    私と話しながら日本酒を呑み、目線は職人の仕事を追っている。
    「かっぱ巻きを握ってくれ」と見習いのN君に言う。N君も緊張した面持ちでかっぱ巻きを握り始める。
    N君が握った鮨をKさんは旨いともまずいとも言わず只黙って酒を呑む。
    こう言う客が職人を育てるのだろうな。

    「巨人(本当はオリックスですが)の清原が引退する日まで白髪を染めないんだ」とKさんはおっしゃっていた。
    贔屓とはそういうものだ。
    又一緒に酒を呑む約束をしKさんが先に店を出た。
    板前のTさんから私の会計もKさんが済ませボトルまで入れて頂いた事を聞いた。
    あまり見かけなくなった粋な酒の呑み方が出来る人である。

    私には、Kさんは見習いのN君の鮨を食べに来ている様に見えた。
    鈴虫の雄がいなくなった後、新たな雄を買って虫かごに入れるべきかどうかをT鮨のカウンターで考えていた。食べられたから次じゃあまりにも雄が理不尽だよな・・

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