ウグイス

  • 2010.12.31 Friday
  • 10:16
伊豆地方の小さな温泉街にいる。
この地方の穏かな気候のせいかどうも年の瀬だという感じがしない。
私が日中は殆ど外に出ていないせいもあるのだろうが・・なんか完全に夜行性になってるな。
日本海側や東北地方では強い寒波の影響で大雪が降っているという。
寒いのはしょうがないが、降りすぎた雪による冬の事故などが起きなければよいのだが。

昨夜はSさんより電話を頂き「来ているなら一緒に呑まないか」のお誘いに二つ返事で出て行った。
Sさんは大学野球で全日本代表選手だっただけあって酒の呑み方が半端じゃない。
美人ママの小料理屋Yで待ち合わせて少し呑んだ所で酒を変えようとハワイアンバーに。
少しだけ歌でも歌うかと私と同郷のママがいるスナックGに顔を出す。少しだけのはずが閉店時間まで粘った所で追い出された。
それでもやっている店はないかと探してみるが、年末の温泉街のネオンは全て消えていた。
私は賑やかな盛り場に出ると何故だか帰りたくなくなってしまう。
別に家に帰ると辛いことがある訳ではないのだが・・アハハ
一昨日は一昨日で東京に戻り熱血政治家I、イケメン上場会社社長T、代官山のカリスマ美容師M、麻布のチャリンコ住民Y、小生恋をしていますのM、それに酔うと恐い会計士Aとで毎年恒例の男だらけの忘年会(どうにかならんかね)出席の為、六本木の鍋屋に集合した。死神博士A、青年ヤブ医者院長Sは仕事で遅くなるとの事。
あいつら逃げたな・・・。
今日こそは早く帰るぞと鍋をつつきながら誓ったのに、Iの嫁さんと同じ名前の可愛い子ちゃんのEちゃんを指名した頃には既に自分が何処にいるのか解らなくなっていた。
そして気が付いた時には何故か新宿の餃子屋で朝の6時過ぎだというのにおじさん達は紹興酒で「乾杯!」と叫んでいる。
年末とはいえ、気のせいか病気になる前より酒の量が増えてる気がする。
主治医と一緒に呑んでいるのだから大丈夫だろう…アハハ

私の育った実家近くに当時、ウグイスと呼ばれていた町があった。
正式な町の名前はもちろん違うのだが大人が差別部落の意味を込めて呼んでいるその呼び方をまねて、
子供の私達もその町に暮らす者達を「ウグイス」と呼んだ。
何故ウグイスなのか意味など解らなかったが皆がそう呼んでいるから私も又、皆と同じ様にウグイスと呼んでいた。
ウグイスは競輪場の近くと云う事もあってか競輪の開催される日には新聞と赤ペンを持った男達であふれていた。
男達の中には入墨(今は刺青なんていう)を入れた者も多く、昼間から酔っぱらって道路で寝ている者達もいたりした。
少年野球チームのグランドと私の家との間にウグイスがあった事から練習の帰り道私はウグイスを通って家路に着いた。
子供ながらにウグイスを通るときには何故だかわくわくする気持ちと少しの緊張感があった。
ウグイスにはスナックや居酒屋それに雀荘やホルモン屋が所狭しと古い長屋で軒を連ねていた。
競輪が開催されない日には殆ど人の気配がしないウグイスだが開催される日の夕方近くになると昼間の殺伐とした町を切り取ってしまったかのように赤やピンク、紫の看板に灯りが入りそのネオンが艶かしく少年にはそれが美しくさえ感じた。
毎晩店の女達が胸の大きく開いた派手なドレスを着て男達と騒いでいた。
店のドアが開くと異次元の扉が開いたかの様に酔った男達が大声で笑い叫びそれを女達が抱きつき笑いながら送り出す。
その女達の中に少年の私が知る女がいた。
女は下品なくらいの真っ赤な口紅をひき呂律が廻らない程酒を飲んでいるNの母親だった。
Nの母親は客を送り出した後、私を見つけると「ちょっと待ってて」と視点の定まらない目でフラフラと店に入っていった。
出てきたNの母親が持たせてくれたのは鼻紙(ちり紙)に包んだチョコレートだった。
少女の様な悪戯な目つきで私にウインクをして「仲良くしてやってね」と笑うと彼女は又あの異次元の扉の中に戻って行った。
Nの母親が残した酒と香水の匂いに少年の私は大人の女を感じていた。
ドレスの胸元から見えていた彼女の下着が家に帰って夜布団の中に入って目を閉じても少年の頭の中から消えなかった。
春先に転校してきたNは秋になっても仲の良い友達がいるでもなくいつも一人でいたように思う。
私は1度だけNの家に行った事があった。何故だったのか覚えてはいないが珍しく良く晴れた大晦日の午後だった事は覚えている。長屋の小さな借家はNと母親の2人暮らしとはいえ、決して広くはなかった。殆ど家具らしい家具はなかったが、それでもきちんと物が片付けられていた。買い物から帰って来たNの母親がNと私の為に酒粕で甘酒を作ってくれた。
鋭い目つきのNとは違ってNの母親は優しい目をした静かな印象で、大人達の噂する「パンパンの朝鮮女」ではなかった。
Nが友達を家に連れて来たのは初めてだとNの母親は嬉しそうに笑っていた。

私は言えなかった。Nの事を皆と同じ様に「チョン」と呼びウグイスの傍にいると皆から無視をされるのが恐くて私も皆と同じ様にNの事を差別している事を・・
それからもNは学校でいつも一人だった。しかしその一人は寂しい孤独の一人ではなく大人の男が持つ群れない凛とした強さを持つ一人に私には見えた。

私がNの母親とNを最後に見たのはそれから暫くしたまだ雪のちらつく春先少し前の日だった。
子供の私が見てもその道の人間だと解る男と手を組んで競輪場から出てくるNの母親は嬉しそうに男を見て話していた。
その後ろを無表情なNがついて歩いている。
幸せそうな親子にも見えた。
NとNの母親はそれから暫くしてウグイスの町から消えたと噂が流れた。
大人達の話では店に借金を残したまま店に出入りをしていた客の男と一緒に町を出て行ったそうだ。

40をとうに過ぎた今でも時折酒場で一人酒を呑む鋭い眼をした男を見かけるともしかしたらNでは・・と思う時がある。
彼があの先の人生をどう生きたのか、彼の母親が元気なのかと今でも酒を呑みながらふと思う時がある。
私が酒場に行くと帰りたくなる理由は少年時代に見たあの異次元への扉に入ってみたい気持ちや、美しいネオン街にある妖艶な女達のあの色気を探しているのかも知れない。
今年も何とか年は越せそうだな。

スポンサーサイト

  • 2017.10.11 Wednesday
  • 10:16
  • 0
    • -
    • -
    • -
    コメント
    コメントする








        

    PR

    calendar

    S M T W T F S
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    293031    
    << October 2017 >>

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM